東京高等裁判所 昭和29年(ネ)1313号 判決
被控訴人主張の約束手形の振出の事実は、控訴人の否認するところであるが、右手形たる甲第一号証の一と当審証人喜多島一夫、隠岐広忠、高橋三四郎、湯浅輝一の証言並びに当審における当事者双方本人尋問の結果(但し証人湯浅輝一の証言並びに控訴人本人の供述中後記措信せざる部分を除く)を綜合すれば、右手形の振出に関連して次の事実を認定することができる。すなわち、昭和二十七年四月頃、控訴人は、訴外隠岐広忠及び妻の父大沢良造と共同で丸高商店なる商号を使用し、控訴人が営業名義人となつて靴下類の販売業を開始し、その資金は控訴人において支出し、株式会社第一銀行八重洲口支店に控訴人名義の当座預金口座を設け、甲第一号証の一に押捺せると同一の丸高商店なる印章と、高橋善次なるゴム印を使用して小切手の振出などをなし、昭和二十七年十二月頃外交員として控訴人の姉の夫なる訴外湯浅輝一を雇い入れて営業をなし来つたのであるが、欠損となつたため、大沢良造、次いで隠岐広忠が脱退し、ひとり控訴人が湯浅輝一に営業をまかせて継続して来たところ、欠損を回復することができず、一方控訴人は、大栄漁業株式会社に勤務していて専心丸高商店の営業を顧みることができなかつたので、丸高商店の営業を湯浅輝一に譲渡したのであるが、湯浅輝一は、営業上の信用と得意先に対する関係上、依然丸高商店なる商号を続用するのみか、右営業につき控訴人名義の株式会社第一銀行八重洲口支店の当座預金口座を利用し、従前使用の丸高商店なる印章と高橋善次なるゴム判を使用して控訴人名義の手形を振出す等の所為があつたのにかかわらず、控訴人は、これを阻止し、または従前の取引先に対し右営業譲渡の通告をなす等のことをなさず、暗黙の間、湯浅輝一に対し自己の氏名又は商号を使用して営業をなすことを許容していた事実並びに被控訴人主張の約束手形は、湯浅輝一がかかる状況の下において昭和二十九年二月頃自己営業のため訴外千代田編織株式会社から靴下類を仕入れ、その代金百二十六万九千六百四十円の支払のため同会社を受取人として振出交付したものであつて、千代田編織株式会社は、控訴人が右営業の営業主であると信じて右の如き取引をなし、これに関連して本件手形の振出交付を受けた事実を認定するに十分である。
この認定に副わない証人湯浅輝一の証言及び控訴人本人尋問の結果はいずれも措信しがたく、他にこの認定を覆すに足る証拠はない。
されば、本件手形は、控訴人が自ら振出したものでなく、また湯浅輝一が控訴人を代理して振出したものでもないので民法第百十条第百十二条を適用する余地はないのであるが、これをもつて湯浅輝一が偽造したものであるということもできず、控訴人は、湯浅輝一がかかる事情の下に振出した本件手形につき商法第二十三条により同人と連帯して弁済の責に任ずべきものと認めるのが相当である。
しかして、被控訴人主張の裏書の事実は真正に成立したものと認められる甲第一号証の一の裏面によりこれを認めうべく、支払のための呈示及び拒絶の事実は当事者間に争ないところであるから、控訴人は、被控訴人に対し右手形金百二十六万九千六百四十円及びこれに対する満期たる昭和二十九年四月五日以後完済まで年六分の率による利息を支払わなければならない。